その森のできごと
東日本大震災による津波や原発事故は、あまりにも衝撃的な出来事であり、当初私は、この出来事を作品として扱うことに強い抵抗を感じていた。
しかし、ある外国人作家から「あなたは写真家なのに、なぜこの出来事を記録しないのか」と問われたことをきっかけに、私は何度も東北へ足を運ぶようになった。
津波によって失われた街。人の気配を失った福島第一原発周辺の風景。
そこには、写真の被写体としてあまりにも強烈な現実が広がっていた。
だが、通い続けるうちに、私がその場所で感じるものと、カメラが写し出すイメージとのあいだに、ずれを感じるようになった。
荒廃した無人の街は確かに恐ろしい。
しかし同時に、誰もいなくなった土地にも桜は咲き、森には豊かな光が満ちていた。
自然は、人間の不在とは無関係に存在し続けている。
その美しさは、事故の悲惨さと単純に対立するものではなく、むしろ同じ場所に共存していた。
私は、この容易には言語化できない感覚を記録するために、フォトグラム*1というカメラを用いない写真技法を選択した。
対象に直接触れながら像を定着させるこの方法は、「見る」という行為よりもむしろ、「痕跡を残す」という行為に近いのかもしれない。
原発事故以前、福島県の空間線量率は0.035~0.046μSv/hであった。*2
2011年3月11日以降、少なくとも東日本全体に何らかの放射性物質が降り注いだことは確かで、それが直ちに健康へ影響を及ぼすレベルではなかったとしても、放射性物質の半減期*3を考えれば、決して無視できる問題ではない。
《その森のできごと》というタイトルのもと展開される一連の作品は、3.11の事故により被ばくした生物をテーマにフォトグラムという写真技法を使って事故後の生物の存在や痕跡を観察・記録する。
_______________________________
*1直接感光紙の上に被写体を乗せたりすることでそのものの影を捉える技法
*2これは2013年3月31日、福島県が公表した平成22年度(2010年度)『原子力発電所周辺環境放射能測定結果報告書』p.67~68に、記載されていた 第5 原子力発電所周辺環境放射能測定値一覧表5−1福島県測定分5−1−1空間放射線を転載したものです。
福島県ホームページ→http://www.pref.fukushima.jp/nuclear/old/info/101202-2.html
*3<各放射性物質の半減期>
ヨウ素131→8日、セシウム137→30年、プルトニウム239→2.4万年、ウラン238→45億年
作品に青色を使用していることについて
この技法(ブループリント)はもともと青く発色するという特徴がありますが、他の技法や色を選択することも可能です。その中でも、青色の持つ静けさや透明感、神秘性が本作品のイメージに合うと考え、青色を選択しました。
梅 #003 0.21μSv/h 2016 Photogram 175mm×175mm
笹 #001 6.02μSv/h 2012 Photogram 420mm×594mm
鬼灯 0.91μSv/h 2012 Photogram 420mm×594mm
桜 #000 0.87μSv/h 2012 Photogram 420mm×594mm
向日葵 10.4μSv/h 2012 Photogram 420mm×594mm
蜻蛉 0.13μSv/h 2013 Photogram 210mm×297mm
大犬の陰嚢 0.35μSv/h 2016 Photogram 250mm×175mm
彼岸花 0.72μSv/h 2013 Photogram 420mm×594mm
蜥蜴 0.11μSv/h 2013 Photogram 210mm×297mm
蕨 0.26μSv/h 2013 Photogram 210mm×297mm
蜘蛛 1.68μSv/h 2013 Photogram 210mm×297mm
#001 0.12μSv/h 2013 Photogram 210mm×297mm
#002 2.03μSv/h 2013 Photogram 210mm×297mm
蒲公英 1.63μSv/h 2013 Photogram 210mm×297mm
桜 #002 0.21μSv/h 2014 Photogram 210mm×297mm
桜 #006 0.21μSv/h 2013 Photogram 420mm×420mm
桜 #007 0.21μSv/h 2013 Photogram 420mm×420mm
桜 #008 0.21μSv/h 2013 Photogram 420mm×420mm
桜 #009 0.21μSv/h 2013 Photogram 420mm×420mm
桜 #011 0.21μSv/h 2013 Photogram 210mm×297mm
お問い合わせ
©︎ 2026 Takuboku Kuratani